大判例

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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和29年(う)430号・昭29年(う)434号 判決

論旨は、被告人等の本件所為は特定の選挙にあたり、特定候補者の当選を目的としたものではなく、選挙に関する啓蒙運動として行われたものに過ぎないから選挙運動ではない。というのである。しかし、被告人等が原判示の如く「衆議院議員候補者片島港略歴」と題する文書(以下略歴表という)を頒布するに至つた事情は、昭和二七年五月開催された全逓信従業員組合第三回全国大会において、次期衆議院議員総選挙に候補者として片島港を推せんすることに決定し、右組合中央本部の指令に基き、これを衆知徹底せしめるためになされたものであること所論のとおりであるとすれば、これ正に特定の選挙にあたり、特定の候補者たるべき者の当選を目的としたものというべきで、このことは又右略歴表(証第一号)の記載と頒布の時期、枚数等に徴し疑を容れないところである。所論は、本件の如き所為は右第三回全国大会以来常時行われていたもので特定の選挙を目標としたものではないというけれども、右略歴表を頒布することは昭和二八年三月一七日右組合宮崎地区本部の第九回執行委員会において始めて具体的に決定されたこと控訴の理由三に述べてあるとおりであるから右の所論はにわかに首肯し難い。又右頒布の対象が組合員に限られ、その中には選挙権を有しない者もあつたにしても、右組合員の大部分約八割が有権者であつたことは所論のとおりであるから、これを以て当選を得しむる目的のあつたことを否定する根拠となすには足りない。しかして、かように被告人等の本件略歴表頒布の所為が特定の選挙にあたり、特定の候補者たるべき者の当選を目的として行われたものである以上、所論の如くその所為が全逓信従業員組合の選挙に関する啓蒙運動としてなされた場合においても、これを以て選挙運動であるというに妨げないのである。即ち、被告人等の本件所為を以て選挙運動であるとなす原判決は正当で、論旨は理由がない。

(二) 同三の論旨について。

本件で有罪とされる点は、被告人等が衆議院議員候補者たるべき片島港に当選を得しむる目的で、その立候補届出前に同候補者の略歴表を頒布して選挙運動をなしたという事実であるが、かような具体的行為は全逓信従業員組合中央本部の指令によるものではなく、昭和二八年三月十七日同組合宮崎地区本部の執行委員会における決議に基くものであることは所論のとおりであるから、本件所為は右組合中央本部において全国選挙管理委員会と連絡して決定したもので、適法性の限界内における行動であると確信していたというのは理解し難いところである。のみならず、本来違法な行為を行為者において適法であると信じていたからといつて犯罪の成立になんらの影響をも及ぼすものではない。しかして、労働組合員は組合機関の決定に服する義務があるにしても、組合機関の決定の内容が、これを実現するときは犯罪の成立を免れないが如き違法のものである場合にはその決定は無効で、なんら組合員を拘束するものではなく、かような決定に従わないことは何人を組合員の立場に置いても期待し得ないことではない。されば、被告人等が右組合の組合員であり、被告人等の本件事前運動の所為が右地区本部の決定に基くものであるからといつて期待可能性がないとはいゝ得ないのである。論旨も理由がない。

(裁判長裁判官 山下辰夫 裁判官 長友文士 裁判官 島信行)

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